ピコレーザーはタトゥー除去には適さない

この数年、当院へのお問い合わせに正確とは言えない理解が目立つようになっていることもあり、そろそろ情報を整理したいと思いました。 

 

0. ピコレーザーの革新性と治療結果の乖離 

筆者(宮崎)は毎年数回、主に学会などのブースにて複数のピコレーザーのメーカー(代理店)の方とお話をしています。 その時点における最も良好な治療結果(チャンピオンデータ)を見せて頂こうと御願いするのですが、現在手元にございません、レーザーカタログには掲載していません、とか言われて明確なデータ提示を受けられないことが少なからずありました。 

毎年毎年注意深く見ているのですが(カタログ症例写真が逆さまですよとご指摘申し上げたこともありました。世界的メーカーなのですが・・)、症例の更新は少なく、レーザーカタログデータの更新も5年前から変わっていない症例も少なくありません。

 

「ピコレーザー 刺青 除去」などの検索語でグーグルの画像検索をしてみても、ピコレーザーでのきれいな治療結果は現状では皆無といっていい状態です。多くのウエブサイトでも、メーカー提供の、まあこういっては失礼なのですがショボい(同一症例の)治療結果が掲載されており、オリジナルデータを掲示しているクリニック自体が少数派です。

 

そのオリジナルデータも、1回でここまで薄くなるんですよ的な進行度を強調するものが主です。ほぼ除去出来ている症例もあるにはありましたが、元々がボカシの症例で、元々濃い症例が完結している例は捜した限りでは見当りませんでした。

 

ピコレーザーがレーザータトゥー除去の決定版、時代はナノからピコへ! 1/1000のパルス幅(照射時間)で半分の回数、半分の期間!といった声高なトーンで喧伝され始めてから5~6年は経過していると記憶しますが、勇ましいうたい文句と裏腹にイマイチ冴えない治療結果の乖離はいったいどういうことでしょうか。

 

 

1.タトゥー除去の定義と除去のメカニズム 

まずタトゥーを除去する、とはどういうことか考えてみたいと思います。 タトゥーは皮膚を傷つけながら入墨されているため、仮に色素を取り除いたとしても入墨時点の傷が浮き出てきます。その傷に加えてレーザー照射による皮膚ダメージも加わることになります。従って以下の2点はタトゥー除去を考える上で必須の点です。

1-1. タトゥー色素が消失する 

1-2. 元タトゥー皮膚と正常皮膚の境目が目立たない
 

1-1. について 

安定して皮膚に留まっている状態のタトゥー色素を消失させるためにはタトゥー色素の集合体を、異物を排除する機能をもった「食細胞」を活性化して「食作用;ファゴサイトーシス」というメカニズムで食細胞に取り込ませ、体外に排除させる(あるいは場所を散らばらせる)必要があります。 

※食作用(phagocytosis)とは、 単球やマクロファージ、好中球等の細胞が体内にある程度大きなサイズの異物(細菌、ウイルス、寄生虫)や異常代謝物(ヘモジデリンなど)をエンドサイトーシスによって細胞内へと取り込み、分解する機構のこと。 食作用は異物に対する免疫機構の最前線であり、自然免疫に分類される、というものです。

その場合に食細胞は最大1–3 μmまでのターゲットを取り込むことができることがいくつかの研究でわかっています。従って安定的に皮膚に留まっているタトゥーインクの集合体をバラバラにして食細胞のスイッチを入れる必要があります。 あくまで「1–3 μm程度の大きさの集合体にバラバラにして」「貪食のスイッチを食細胞に入れてあげる」ことが必要なのであってそのための方法はいくつかあります。

また、食細胞はマクロファージ、単球、好中球のみではありません。赤血球やその他の遊離細胞もある情報を受けて貪食能を発揮することが出来ることがわかっており、実は最大1–3 μmまで、という制約も現時点での知見に過ぎません。

ここで「バラバラ」と記載したのは、意味があって、良く直径の大きな色素粒があるようなイラストを見かけますが、実際には細かい色素粒が何らかの食細胞にエンドサイトーシスで取り込まれた後、血管やリンパ管の壁を通過できずに食細胞がアポトーシスで死んでしまい、脈管壁に沿って食細胞の死骸の中にあった可能性の高い色素塊あるいは死んでしまった食細胞の集合体が並んでいる可能性なども推測されているのです。あたかも大きな獲物を飲み込んだまま動けなくなったヘビの化石のようなものです。 

 

すなわち、入墨後に安定的に体内に留まっているタトゥー色素は
 

食細胞が貪食できない大きなサイズのタトゥー粒子  プラス 

食細胞が排除の過程で特定領域に集簇して排除し切れなかったもの(脈管内への移行が成功できなかった食細胞の死屍累々の痕跡) 

の総和であると推測されます。

 

少なくとも後者は、粒子を砕く(breaking into fragments)必要は無く、軽く解きほぐして(scattered in all directions)あげれば再貪食により除去されることになるでしょう。被膜などに覆われた異物塊に衝撃を与えて異物の一部を露出させ、新たに抗原提示させれば良い訳ですから。

 

 前者にしても後述する「コンプレッションイフェクト」で破砕は十分に可能です。このあたりはある程度推測になってしまいますが、少なくとも現在の説明のような単純な模式図で片付けるには違和感を感じます。人体は複雑系であり単純な図式では語れません。

 

1-2. について 

このことは極めて重要であるにも係らず、ほとんど言及されることがありません。 いくつかの理由が考えられますが、簡単にいうと 

念頭にない 

念頭にあっても技術が無い 

念頭にあり技術があっても道具(マシン)が無い 

複合的なマシンを使った治療は特定のマシン アピールに意味をなさなくなるので積極的に研究を進める動機付けが低い 

 

などが挙げられます。

 

特に最後にあげた問題はデリケートで、複数の治療方法による総合的な治療結果は特定マシンの宣伝に使用し難いネックは大きく、当院でも治療結果データをレーザーメーカーに提供していますが提供症例の選定に苦労します。この問題はまた項を別にしましょう。

 

2.タトゥー除去から考えたレーザースペック 

2-1.  「ピコレーザー」という呼称は多少盛り気味 

実は「ピコレーザー」という呼称は多少盛り気味な名称と言えなくもありません。 全てのピコレーザーが 450ps~800ps というパルス幅(照射時間)ですが、これは単位をナノセカンドに替えれば要するに 0.45ns~0.8ns ということであり、 ナノからピコへ!1000分の1! という印象操作的ネーミングのその実体は まあハイスペックなナノレーザーの 5分の1から10分の1にパルス幅が短くなりました って所です。 これはこれで技術的にはすごい事だしレーザー好きには夢のある事だと思いますが、多少「素人だまし」感は否めません。

 

2-2. タトゥー除去レーザーに必要な要素 

タトゥー除去レーザーで重要な要素は以下の4つです。 

1) パルス幅(1ショット照射するときの照射時間) 

2) 照射密度(フルエンス、単位面積当りの照射エネルギー) 

3) パルスジュール(1ショット照射したときのトータルの照射エネルギー) 

4) 照射径  

 

ピコレーザーというのは 

1) がハイスペックナノレーザーの 8分の1から3分の1程度の短さで(長所) 

2)は似たようなもので 

3)は 最大でも 3分の1程度の強さで (短所) 

4)は実効照射径は2~6mm   (短所)

 

ってとこでしょうか。 それで1)に極端にフォーカスされて喧伝されているわけです。 しかし本当にタトゥー除去で重要なのは実は 3)4)であり、ここのスペックが治療効率に大きく影響します。 1)はソコソコ(4~8ns)であればタトゥーは十分に除去できます(トーニングはダメですが)。
 

 

ここは少し複雑な話しになってしまうのですが、 

1~2方向から色素塊に衝撃を与えても衝撃の来ない方向に色素塊が逃げてしまうことでレーザーのエネルギーが効率的に対象物に伝わり難いが、多方向から色素塊に同時に衝撃を与えることで色素塊の逃げ道が塞がれ、効率的に対象物にエネルギーを与えることができる、という現象があります。いわゆる「応力閉じ込め」やら「LIOB (Laser induced optical breakdown)」とも表現されるものが効率的に対象物に実現できる、ということです。これは当院が経験上見出した現象で、まだ論文等は無いはずです。因みに当院ではこの増強効果を「壁ドンイフェクト」とか「コンプレッションイフェクト」と呼んでいます。 

そしてその現象が、3)4)で(ハイスペックナノでは)効率的に実現できるのです。 光音響作用を高めていって、ブローアウトに「応力閉じ込め」を図るより、四方八方を取り囲んでもう少しマイルドに「応力閉じ込め」を図ったほうがスキンダメージも少なく合目的です。

 また、4)は大きいほどビームのプロファイルは安定しスキンダメージが減少します。つまり照射径が大きくなればなる程、照射径のエッジが立たない状態になり、皮膚表面へのダメージは減りますが、照射径が小さくなればなる程、照射が皮膚表面に与える影響は鋭く「エッジによる皮膚損傷」の度合いが激しくなります。しかも照射径が大きいほど深達度は深く、フルエンスは下げることが可能になります。これは7〜8mmでの照射を経験しない限り理解できない現象です。大口径照射は様々に大きなメリットのある照射方法なのですが、この照射が可能なレーザーは限られているせいか(もちろんピコレーザーではこれが出来ません)学会等で語られることはなく論文等もまだありません。当院が独自に見出し、多用しているテクニックです。
 

 繰り返しますが 3)4)のスペックが共にシッカリしていると、皮膚表面のダメージを最小限にしてタトゥー色素塊を効率的にバラバラにすることが可能になります。3)だけでもダメ 4)だけでもダメです。あくまで両者の十分なスペックが必要です。蛇足ながらこの観点はトーニングを考える上で重要な視点となっていますので、また項を改めて議論したいと思います。
 

 そしてひとつ重大な技術的問題があります。 

この4因子を確保するためには光学的にクリアしなければならない問題が多く、ピコレーザーのようにドンドンパルス幅を鋭くしていくと、光学系のパーツがもたないという重大な問題があるのです。多関節アームの中にはいくつも光学系のレンズやリフレクターミラーがありますし、本体内にもいくつも光学パーツがあります。ピコレーザーのパルス幅で照射エネルギーを増していくと通過するレンズやリフレクターのビームの輪郭部分から割れ始めてしまいます。従って入射角を少し傾けてレンズへの当りを弱くしたりするのですがそれも限界があります。つまり光学パーツの強度耐性上、ピコレーザーでこの4因子を確保するのは実は困難なのです。 

 

4.反論歓迎 (但し公開討論として) 

以上私見を述べました。

本稿ではピコレーザーについてタトゥー除去の視点からやや否定的な議論をしました。 本レーザーは商業的に偏り過ぎたプロパガンダが問題なだけでレーザー自体は革新的なものだと思います。ピコフラクショナルなども出てきていますし、若返り系を始め多くの可能性を秘めたレーザーですので今後の発展に期待しています。しかし過度の「素人だまし」説明はちょっと頂けません。 

 

本稿における実名での反論は歓迎です。チャンピオンデータと共にご連絡下さい。データを検討しながらブログ上で討論しましょう。そしてより良いタトゥー除去治療を発展させて行きましょう。

2017年10月記

2019年2月追記

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